スライスする
トマトをスライスする
ナイフで切る
すぅとんっ、すぅとんっ、と
ナイフで切る
よく切れたなと思う
胴は切れている
精神は切れていない
薄皮でつながっている
切らなきゃなと思う
持ち上げてぺろっとする
トマトの味だと思う
トマトケチャップはトマト味じゃなかったなと思う
すぅとんっ、すぅとん、っと
戸棚を開けようと思う
戸棚を開ける
バナナの匂いがするなと思う
バナナの匂いがする
パンを取ろうと思う
小麦粉のにおいがつよいパンを取る
つよい小麦粉の匂いがする
3枚とって3段にする
ふふっとくだけた笑みを浮かべる
お兄ちゃんは働いているから3段なんだと思う
2段だったころよりも成長したと思う
20年後は4段になるかもしれないと思う
レタスとサラミを挟もうと思う
レタスとサラミを挟む
お昼のサンドイッチになる
お昼のサンドイッチを食べるお昼の時間は12時じゃない
お昼のサンドイッチを食べるお昼の時間はお昼の11時くらいだと思う
お昼の11時くらいにお昼のサンドイッチを食べると思う
7時20分だと気づく
バスが後20分で来るかなと思う
バス停にearth is flatって落書きがあったなと思う
地球はひらたい
ひとが思っていた時代があった
向こう岸に手を振ったら未来と繋がれる時代
落書きのスプレイは黒色だった
バス停には緑いろで色あせたシールが貼ってあったと思う
パラダイムシフトっていうんだ、って余計なお世話だと思う
ぼくが動いているんだって思う
ぼくが動かしているんだって思う
すぅとんっ、すぅとんっ、と
ぼくがメテオシャワーを
シャワシャワした気持ちにはならないように変えたんだ
パレスが最大の小惑星だったり
ケレスが最大の小惑星だったり
小さい中の最大は内から溢れあがるぼくにある
目があくタイミングくらい責任を持たせてほしいと思う
一度も責任を取らせてもらったことがないやと思う
トマトのスライスは人生に含まれますか
届かない声はぼくが責任をもってすべて聞く
届かないうちはトマトもトメィトゥもその薄皮で存在を維持している
卵が先か鶏が先か
トマトのスライスが先だろう
赤くなる
種をつくる
朝は短いというけど瞬き百は軽い
長い朝は土曜日の洗濯をする朝だと思う
シャツをゆるい風がふらっと触る音が好きだ
ゆるい風の形をシャツがあらわしてくれる
バスのおじさんは今日も朝と相性が良いのだろうと思う
静寂を「グダイ、マイト」で切り裂いてくるんだろうと思う
砥石で喉を研ぎいくばくかの水をくぐらせて
切る音がしないまま通り抜けていく薄氷の声
彼はいつサンドイッチがサンドイッチであると口にしたんだろう
お弁当箱にサンドイッチを入れて
お弁当箱用の袋にお弁当箱を入れる
半目を開けるゆるい風が
すぅとんっ、すぅとんっ、と
バスにのる
45分かかる
30分寝る
夢は見ないと思う
詩は食べられる
おいしい
ありがとう
Feb 29, 2020 Perth Kalamunda
こちらの詩は日本現代詩人会投稿詩(第16期 2020年1-3月)にて佳作に選ばれました。