私の趣味のひとつである山登り。今回はその楽しさを教えてくれた師にインタビューをしていきます。
インタビューにお答え頂くのは 尾澤 正和(おざわ まさかず)さん。
尾澤さんは人事部として働きながら、フルマラソンを優に超える距離の60~70キロのトレイルランのレースに何度も出場し、朝5時起きでランニングしてから出社しているアスリート(本人はアスリートではないと否定)。
そんな尾澤さんにトレイルランの魅力についてお伺いしました!
トレイルランとは…トレイルランニング・Trail runnning。Trailとは舗装されていない道のことで、山道や林道を指し、そこを走るアクティビティ。トレランと略される。
早朝、山を走ってから出社する漢
—— 大変ご無沙汰しております! まずは簡単にお仕事について、どんなお仕事をしていますか?
尾澤:知っているでしょ笑。人事の仕事ですね。カッコよくいうと人と人をつなげる仕事をしています。
—— 尾澤さんは人事として私が就活生のころ、説明会で知り合いましたね。ご縁があり入社し良くして頂きました(そして退社してからも…)。尾澤さんは当時からよく山に行かれていましたが、普段はどれくらい山に行ったり、走ったりしているのでしょうか。
週1回は山に行っています。走るのは月間170キロ程度が多いですね。走るのは必ず朝と決めていて、出勤前5時半に起きて1時間ほど走ってから出社が多いです。最近は少ないですが、山に登って(トレイルラン)出社することもありますよ。
距離の計測はStravaというアプリを使っていて、今っぽくて良いアプリです。GPSで距離を取るだけでなく、ランキングが出たり他のランナーとメッセージができる点も面白いです。人は集団で動くものですし、同じ目標をもって走る人がいるだけで続いたりしますね。
—— 月間距離数を見ると4月が280~90キロと恐ろしいことになっていますね笑。
4月は、UTMF(ウルトラトレイルマウントフジ)っていう100マイル(160キロ)のトレイルランの大会があったのですが、今年はコロナの影響でできなかったんですね。その際、Stravaというアプリ内で「1週間で160キロ走ったら出場権をあげるよ」っていう企画があったんです。
「俺は全然そんなんやる気ないよ」と思ってたんですが、友人から「いや、やるでしょ!」と連絡が来て「やってみるかー」と1週間で160キロ走りました。
キロ数の感覚が全く違う気が…
面白かったのはいろんなパターンの戦略が組めて、「俺は1回で160キロは厳しいけど10キロを2回だったらいけるな」とキロ数を分けられるんです。1回では長い距離に見えますが、細かく分けて積み重ねていったら達成できた感じです。朝10キロ、夕方10キロ走って、土日に30~40キロ走っていました。
ただ、オチがあって、達成をするとデジタルトロフィーというのがもらえるんですね。そのトロフィーに加えて、エントリーをしていることで出場権が貰えるシステムだったんです。
それがエントリー自体を忘れていて、ただ160キロ走った人になっちゃいました。出場権取れなかったんです笑。
山に魅せられたきっかけ
—— 小さいころから運動はよくしていたのでしょうか?
運動自体好きじゃなかったんですよね。小中学校でも体育の時間が好きではありませんでしたし、実は今もあまり好きではありません。ただ山登りが好きなだけなんです。
「んじゃ、何で走っているのか」というと単純に山登りが好きなんです。そして山登りをするためには絶対的に基礎体力が必要になってきて、体力があった方が距離も伸ばせるしより楽しめる。その準備としてランニングがあるのかなって。
—— 山登りがあるからランニングがついてきたんですか?
そうですね。例えば普通に仕事をしていると3泊4泊のアルプス縦走ってなかなかいけないんです。そうすると1日で長い距離を走れるトレイルランニングってすごく魅力的だなって。
普通に歩いていたら2日かかる距離を1日で行ける訳だからこれはもう魅力的だなって。働いている中でも縦走が出来ちゃんです。
そうするためにはある程度の基礎体力が必要なので、朝運動して体力を備えて、長い距離を走ったり、たまにレースに出たり。時短的な要素もありますね笑。
—— だから朝も走るんですね。
朝に走る理由はコンディションがいいから朝にしています。仕事である程度出し切っちゃうと、夜帰ってから何もできなくて。適当にやるならいいんですが、真剣に取り組むとそうもいかない。夜には運動しようって体力もなくなるものだから、22~22時半には絶対寝ちゃいます。
—— 山登りはいつから始めたんでしょうか。
2007年の10月かな?正直よく覚えていないのですが、高尾山に登ったのは覚えていて、高尾から陣馬山に行ったんです。山梨住のくせになぜかそこまで行って、ただそれが面白かったのです。
それからだいちくんと一緒に行った湯村山(山梨)に行って、いろいろ登っていく内にいつの間にかはまっていました。
始めた頃はどこの山を登っていいか分からないので「日本百名山」を基準にしようと思ったのですが現実的には難しくて。例えば明日行こう!と山梨から青森に行ける訳もないですよね。でも「山梨百名山」だったらいけるな、とりあえず潰していくか、と山梨百名山を登り始めました。
その百名山も1日1山だったとしても100日かかるじゃないですか。だったら走れば1日で山梨百名山5連コンボいけるなと思って、地図を広げて、線で繋いでルートを作成。いつも5コンボ、6コンボ狙っていました。
—— 太鼓の達人じゃないんですから笑
そうそう、太鼓の達人みたいにコンボをいかにつくるかにハマっていったんですね笑。そうこうしていると山梨百名山も登り切っていました。2年位で終わっちゃいました。
次はレースだ。50キロ、70キロ、100キロに挑戦してみよう、とトレイルランのレースに参加し始めたのですね。50キロのレースに出た時には20キロも走ったことなかったんです。
今でこそコース分析もしますが、その頃は何でも取り合えず挑戦してみる精神で取り組んでいました。戦略なしで本番走ってみると「こういう感じか、意外といけるじゃん」だったり、「次はこうしよう」となったりするんです。
100キロのレースにもなるとかなりキツくて「準備しないと何もできないんだな」って実感しました。
—— 徐々にステップアップされたと思いますが、最近の目標はありますか?
うーん、あんまり出てこないですね笑。最近はコロナの影響でレースが少ないのもあります。レースはお金払って目標を立ててくれるので、その点もある意味楽だったりするんですよね。それがないと自分で目標を設定する必要が出てきます。
なので強いて言えば、原点に戻って「自分でコースを作って完走する」という事が最近の目標ですかね。地図でロングトレイルのルートを作って、夏場だったら水場も計算して、クリアするという事です。
今までで一番過酷だった経験
—— 沢山レースにも出ていますが、今までで一番過酷だった経験は?
直近でいうと去年12月に伊豆トレイルジャーニーという70kmのレースがありました。
前半の35キロ地点で胃がおかしくなり、水も固形物も受け付けなくなり、もどすようになっちゃいました。通称「リバース」と呼んでいます、直接的に表現すると下品なんで笑。
水も飲めない、物も食べれないで残り半分の距離があったのですが、不思議なことに人間の身体って意外に動くんです。最後の方はエネルギーがないのでほとんど寝ている状態で走っていました。ゴールの時には目も開かなくて瞑って走っていました。何とかなるんだなって。
—— それは大変ですね…目も開かない状態でゴールテープを切ったらどうなるんですか。
疲れて寝てました。会場でそのまま。とにかくほっとした気持ちがありましたね。順位はどうでも良い部分もあって、ただ完走できることって重要だなって横になりながら思うんです。
—— ほかのレースの時にも山の頂上で少し寝たって話していたような…
良く寝るんです笑。きつかったです。
—— トレイルランでは標高差も結構ありますよね。
トレランは標高差を累積で出すんですが、長いレースだと累積でだいたい4000mくらいになります。レースは登ったり下ったりしますよね。その登りをすべて足すとその位になります。
よんせん…富士山超えとるって…
だからきついんですね。要はお金払ってでもキツイことをしに行くんです。
普通だったらお金払ってリラックスすることを優先することが多いじゃないですか。良いホテルに泊まったり、美味しい食事を食べるために高いレストランに行ったり。私の場合は高いお金を払って苦しみにいっています。
—— その苦しみが楽しいって感覚に繋がるのですか?
最近分かってきたのは、楽なことをした後は思い出にならないんですよね。海外でいろんなトラブルがあると良く覚えてると思います。その瞬間は辛くとも絶対忘れないじゃないですか。
楽なレースもそうで、そもそもエピソードとかも覚えていないんです。脳みそが危機的状況になって死にそうになったり、むちゃくちゃ気持ち悪くてもゴールすると記憶ってなかなか消えなくなります。だから思い出を作りに行くために苦しみにいくのかなって。
個人で行って辛い時は下山もひとつの手ですが、大会は辛くてもお金払ってるし、勿体ないなって思ってゴール目指している時もあります笑。遠くまで来てるしなって。順位で飯を食べてるわけではないのであまり気にしないですが、完走はやっぱり重要です。
思い出をつくるために苦しんでいるのかなって。
Masakazu Ozawa
—— 知らない世界なのでいろいろ衝撃です。
この世界だと私なんかすごく遅い方だし、ものすっごく速い人が周りに沢山いるんですよね。
そこが結構面白くて、たまたまそのジャンルに留まっているとそれが普通になっちゃうんだけど、やったことない人からしたらすごい何やってんのって世界かもしれません。まだまだだなと思っています。だいちくんの英語講師の世界でもそうなんじゃないかな。
仕事に活きていること
—— トレイルランの経験が仕事に活きているなと思うことはありますか?
それで言うと、仕事もレースと全く一緒なんです。例えば、あるプロジェクトの工程が100だとすると、工程が20キロ終わったら「丁度今20キロ地点だな」って感じで。
レースと一緒で仕事も100まで行く、ゴールすることが重要です。なので初めから飛ばしすぎると上手くいきません。
辛いとかはなく仕事もゲームのようになってきて、50キロきらたハーフきたね、みたいな笑。50キロだとそろそろ体調悪くなるころだな、と。本当に体調が悪くなったとしても、想定してるのでそこまで凹むこともないです。
トラブルやクレームが来た時にも、山で言えば雨が降ってきたみたいなものだからレインコート着て粘ろうとなる。雨はずっと降らないので、トラブル・クレームが終わると「晴れてきたなぁ」って笑。残り10キロになったら仕事もスパートみたいに出し切ろう、となります。
その点は本当に仕事に役に立っていますね。あまり落ち込んだりしなくなりました。レースに出ていると必ず体調悪くなったりトラブルがあるのが当たり前なので。
採用でいうならば広告を出す段階はレースエントリーで「どれに出ようかな」、〇名採用が必要ならば「今回は長いレースになるな」なんて考えて仕事しています。
マラソンよりトレイルランが好きなのは、トレイルランの方がいろいろ起こるからかもしれません。
おすすめしたい山
—— そんな尾澤さんがおすすめしたい山を教えてください。
北岳をおすすめしたいです。富士山ってすごく人気があるじゃないですか。ただ日本で標高2位の山って中々出てきません。2位は北岳なんです。
北岳って山々に囲まれていて、地上からはほとんど見えないんですね。それもあって殆どの人がイメージが湧きません。
それでいて登るとかなりキツい。角度もキツイ。だから圧倒的に思い出になります笑。
2位の山で話題性も少ないのにキツい。しかも見えないしイメージがない。アクセスも駐車場から更にバスかタクシーで移動する必要があって、面倒。日帰りで行く場合にはバスの時間があるので必死で登ります。
強烈に思い出要素満載です。
ただ景色は南アルプス全体が一望できることもあり最高です。おすすめですよ。
北岳は中~上級の山です。素晴らしい景色の山なので検索!
初心者の方へのアドバイス
—— これから山に登ってみたいという人にメッセージはありますか。
取り合えず登ってみることは大切かなって。何でもそうですが、色々準備して考える方って多いじゃないですか。「いつか登ろうと思っています」とか「体力がもつか分からない」とか。北岳は難しいかもしれませんが、簡単な山であれば登って帰って来れると思うんです。
まず登ってみて「これ、合わんな」ってなる人もいるはずです。やっぱり何がヒットするかはやってみないと分からないので。だいち君の場合もたまたま山梨に越してきて登ってみたことは大きかったと思います。
50キロのレースも冷静に考えるとあり得ないなって思えますよね。レースであってもエントリーすればスタートラインには立てる訳です。よーいドンでスタートすれば行くしかなくなって。そうすると完走できたりして、「こういう感じか」ってなります。
普通に生活しているとレースも出ないし、山も登りません。山登りなんかは考えれば考えるほど、考えすぎて登らなくなるなって思います。なので登ってみたいという方は「まず登ってみたら」ってことがメッセージですかね。
—— 挑戦してみるってことは何事も大切ですね。
因みに山関連の話を無理やり英語関連の話につなげると(因みに尾澤さんは英語学科卒)
単語覚えるのとかはしんどいじゃないですか。ただそれはレースで言うとまだ前半。普段のジョギング、ランニングでの基礎体力づくりの部分なのでそこで力尽きないでほしいなって。
それに日本人は真面目すぎて「すべてを完璧にしたい」と思う方は多いと思います。完璧を目指すあまり「覚えてから話そう」と話すのをためらう人も多かったりします。
何のために英語を使うかは大切だと思っていて、語学なのだから会話をスタートしてみることは大切かなと。不完全な状態でもデビューして、そこから見えてくることが沢山あるはずです。
細かい部分は仕上げの段階ですし、人と話した方が楽しいですし。「登ってみる」ことですね。
さいごに
—— いやー今日は本当にありがとうございました。インタビューしながら、なぜか「ボロボロだけどうまいラーメン屋がある」と地元民のみ知るお店に連れて行ってくださったことを思い出しました。案内された座敷の座布団が驚くほどへなへなだったことを覚えています笑。
そんなこともありましたね。あれはソウルフードですよ。食べログで星5のお店もいいけど、インターネットにも出ていない店構えがボロボロでも美味しいほうが記憶に残るじゃないですか。辛くても思い出になるのと一緒です。
—— そうですね笑。気づいたらあっという間に1時間半経っていました。本日はインタビューにお答えいただきありがとうございました。尾澤正和さんでした。
ありがとうございました。また山に行きましょう。